2026.01.20
支援ではなく、協働する。
大企業がTokyo 5G Boosters Projectでスタートアップと組んだ理由
スタートアップ企業による5G技術を活用した新たなビジネスの確立などを目指す「Tokyo 5G Boosters Project」では、その支援の一つとして、スタートアップが開発した5G関連の技術やサービスを、実際の街や施設で検証する実証実験が多く行われた。
この実証実験の「場」を提供したのが、通信キャリアやデベロッパー、外食チェーンといった事業会社だ。本事業では「連携事業者」と呼ばれ、自社の施設や店舗、通信環境などをスタートアップに開放し、技術検証を支援する役割を担った。
連携事業者はどのようにスタートアップとタッグを組み、双方にとっての事業機会を生み出したのか──本事業に参画したスタートアップとその伴走支援を担った開発プロモーター4社との対談から、その実例を見ていく。
【Case 1】自社製品の検証機会と、プロモーター連携が広げる接点
(Piezo Sonic × TIS)
インタビュイー
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TIS株式会社
ビジネスイノベーション事業部 / ストラテジー&イノベーションコンサルティング部 ディレクター水船 慎介 氏
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株式会社 Piezo Sonic
代表取締役多田 興平 氏
※所属・役職は取材当時のものとします。
連携事業者が得た、実環境での検証機会
TIS株式会社が支援した株式会社Piezo Sonicは、自律型の搬送ロボットを開発するスタートアップだ。本事業では、5G通信を使ってロボットを遠隔制御できるかを検証した。広大なフィールドを移動しながら、基地局が切り替わっても通信が途切れないか──それを実環境で確かめることが課題だった。

(写真左から)TIS株式会社 ビジネスイノベーション事業部 ストラテジー&イノベーションコンサルティング部 ディレクター 水船慎介氏、株式会社Piezo Sonic 代表取締役 多田興平氏
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水船氏:実証フィールドとして活用したのが、東京都立大学のキャンパスです。都立大には日本でも有数の広域なローカル5G環境が整備されていて、東京都からも実証実験に使えると声がかかっていました。この実証には、連携事業者として富士通株式会社にも参画いただきました。
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多田氏:私たちのロボットに富士通の計測器を載せて、キャンパス内を走行しました。富士通のご担当者様にも帯同いただき、電波強度の変化や基地局が切り替わるタイミングをリアルタイムで計測してもらいました。担当者の方も、自社の機器が実際に使われる現場に立ち会う機会はそう多くないとおっしゃっていて、かなり協力的に動いてくださいました。

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水船氏:「このポイントでアンテナが切り替わった」「ここで電波強度が落ちた」といったデータを、移動しながらリアルタイムで取得できたのは、富士通の皆様にとっても貴重な機会だったのではないでしょうか。
開発プロモーター同士の連携が広げる、参画企業の接点
本事業のもう一つの特徴は、スタートアップを支援する開発プロモーター同士が手を組み、互いの持つリソースを共有する動きが生まれたことだ。連携事業者にとっては、1社のスタートアップだけでなく、複数のプロジェクトと接点を持てる可能性がある。
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水船氏:実は最初の半年ほどは、採択された3社の開発プロモーターはお互いを「競合」のように見ていました。他社より先に成果を見せなければ、という焦りがあったんです。
転機になったのは、初年度の評価委員会(注1)で「プロモーションをもっとやるべきだ」と指摘されたことでした。ただ、私たちはIT企業なので、正直なところ広報活動は得意ではなかった。ちょうどそのとき、同じく開発プロモーターとして参画していたプロトスター株式会社が、株式会社テレビ東京と組んで大規模なイベントを開催すると聞いたんです。「ご一緒させてほしい」とお願いしたのが、協力関係の始まりでした。
このイベントには私たちの支援先のスタートアップも登壇させていただき、自社単独での支援以上に効果的なスタートアップ支援の取り組みができることを実感しました。「競い合うのではなく、一緒にやるべきなんだ」と気づいた瞬間でしたね。

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水船氏:2年目以降は、お互いの持っているものを出し合う関係になりました。私たちは自社内にローカル5Gの検証環境を整備していたので、プロトスターが支援していたデジタルツイン技術開発の株式会社SYMMETRYやXRデバイスなどを開発する株式会社ホロラボにも使っていただきました。
また、私たちの経験を新しい年度で採択された事業者に共有できる場も設けられました。知見が横にも縦にもまたいで蓄積されていく、面白い事業だと感じましたね。
注1:評価委員会…開発プロモーターの取り組みを評価するため、外部有識者等により構成される委員会
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