「邪魔な存在」になったら終わり。地域との共生という哲学
自動配送ロボットと聞くと、効率化や人件費削減といった言葉が浮かぶかもしれない。しかし、LOMBYが現場で最も気にかけているのは、もっと泥臭いことだ。内山氏は語る。
「住民の方に『こいつは邪魔だな』と思われるのが、いちばん怖いんです。一度そう思われたら、もうこの街にはいられなくなる」
その哲学は、ロボットの挙動に表れている。
法律上は時速6kmまで認められているが、例えば南大沢駅前の遊歩道エリアでは、大人の早歩き程度の時速4kmに制限している。高齢者が杖をついて歩いていたり、子供が走り回っていたりする中で、威圧感を与えないための配慮だ。
夏休み期間中は、走行中のロボットに子供たちが集まってきて、囲まれて動けなくなることもあったという。そんなときは、遠隔監視のオペレーターが緊急停止をかけ、「緊急停止中です。スタッフが向かっております」とアナウンスを流す。すると子供たちは離れていく。
効率だけを考えればロスかもしれない。しかし、ロボットが街の「異物」として排除されるのではなく、住民に受け入れられることを優先した判断だ。
その積み重ねが、信頼につながっている。
内山氏によれば、商用運用開始後約4カ月で1,500km超(延べ約1,600km)を走行し、事故は0件だという。最初は懐疑的だった人々も、実績を見て「LOMBYなら大丈夫だね」と言ってくれるようになったと語る。
南大沢の住民の協力的な姿勢も、社会実装を後押ししている。ロボットが走っていると「何やってるんですか?」と声をかけられ、説明すると「今度注文してみます」と返ってくる。そうした温かい反応が、開発チームの励みになっているという。
警察とも相談しながら、将来的には夜間の見回りなど防犯用途への活用も検討している。青色回転灯をつけて巡回すれば、配送だけでなく地域の防犯にも貢献できる──そんな構想だ。ロボットが走っているだけでも抑止効果があり、搭載カメラは約20メートル先まで見通せる。

残る課題と、これからの展開
順調に見えるLOMBYだが、課題がないわけではない。
技術面では、草木の成長への対応が挙げられる。季節によって植栽が伸びると、センサーが障害物として検知してしまい、走行に支障が出ることがある。現在は安全を優先した設定にしているため、そうした場面では監視オペレーターが介入して対応している。
天候にも制約がある。雨量は10mm以下を走行条件としつつ、視界や路面状況次第では10mm以下でも運用を止める判断もするという。
制度の壁もある。現行の枠組みでは1人のオペレーターが監視できるのは4台まで。人件費を下げて事業性を高めるには台数を増やす必要があるが、それには関係機関との各種調整が必要になるなど、課題も多い。
エレベーターとの連携も、技術的には可能だという。Tokyo 5G Boosters Projectの初年度に実証も行った。ただ、当時は経済性の面で成立しづらく、一旦保留しているという。新築マンションで最初から設備として組み込むケースがあれば、対応は可能だ。
一方、エリア拡大は着実に進んでいる。地図データの整備が進んだエリアから順次拡大しており、内山氏は今後も新エリアでの走行を予定していると述べた。セブン-イレブンとの協議のもと、4台で終わりではなく、実績をベースに展開していく方針が共有されている。

技術は信頼の上に実装される
LOMBYの事例が示しているのは、スマートシティの主役は技術ではなく「そこに住む人々」だという事実だ。
どれほど優れた技術でも、住民に「邪魔だ」と思われれば社会実装は進まない。逆に、無事故の実績と、街に溶け込む存在感を築ければ、制度上の規制や心理的な壁も超えていける。
東京都のTokyo 5G Boosters Projectは、スタートアップに実験の場を与えただけではない。技術が社会と出合い、信頼を積み重ねていくための時間と環境を提供したと言えるだろう。
南大沢で育ったこの小さなロボットは、少しずつ走行エリアを広げながら、地域住民にとって「ご近所さん」としての地位を固めつつある。
■「5G技術活用型開発等促進事業(Tokyo 5G Boosters Project)」とは
東京都は、5G技術・サービス等を活用した持続可能な新しい社会の実現等を理念に掲げ、官民を挙げて社会課題の解決をする取り組みとして、令和2年度から令和6年度にかけて本事業を通じ、5Gを活用したスタートアップ企業等の開発・事業化の促進を支援してきました。
本事業では、東京都と協働して支援を行う民間事業者を開発プロモーターとして募集・選定し、多角的な支援を行いました。開発プロモーターは、他の開発プロモーターや通信事業者等と連携・協働を図りながら、最大3年間にわたりスタートアップ企業の開発・事業化を資金的・技術的支援、マッチング支援など多面的に伴走支援を行いました。

■「次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業(Tokyo NEXT 5G Boosters Project)」とは
東京都では、都内スタートアップ企業が、都心部から郊外・山間部、離島を持つ東京というフィールドを活かしながら、世界で通用する競争力を磨き、5Gをはじめとした次世代通信技術を活用した新たなビジネスやイノベーションを創出し、都民のQOL(Quality of life)向上に寄与する有益なサービスを創出するとともに、各スタートアップ企業の企業価値向上を目指しています。
本事業は、前身事業であるTokyo 5G boosters Project同様、東京都と協働して支援を行う事業者を開発プロモーターとして募集・選定し、スタートアップ企業に対し多角的な支援を行います。開発プロモーターは、3カ年度にわたり支援先スタートアップ企業等の開発・事業化を促進するため、連携事業者(通信事業者や実証フィールド提供者、研究機関、VC・金融機関等)と連携しながら、資金的、技術的な支援やマッチング支援等を行います。支援先スタートアップ企業は、開発プロモーター等の支援を受けながら、次世代通信技術等を活用した製品・サービスの開発及び事業上市を目指します。
▼詳細はこちらをご参照ください(「Tokyo NEXT 5G Boosters Project」ウェブサイト)
https://next-5g-boosters.metro.tokyo.lg.jp/
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