【開発プロモーターから見た「Tokyo 5G Boosters Project」】
開発プロモーターとして参加した栗島祐介氏(当時プロトスター株式会社)によると、5Gという方向性が明確だったことで、通信キャリアやデベロッパーの支援を得やすかったという。一般的なアクセラレーションプログラムと異なり、5Gという新しい通信インフラを軸にしたビジネスであれば、連携先も自社との接点をイメージしやすい。実際に本事業では、KDDI、NTTドコモ、ソフトバンクの通信キャリア3社や、三井不動産、東京建物といったデベロッパーが実証フィールドの提供などで協力した。
また、TIS株式会社と株式会社PiezoSonicの協業では、都の事前調整により都立大学での実証実験が実現した。都立大学は当時、日本でも有数の広域なローカル5G環境を整備しており、キャンパス内でロボットを走行させながら、アンテナ切り替え時の通信状況や大容量データのアップロード性能を検証できた。民間企業だけでは接点を持ちにくいアカデミアとの橋渡しが可能になった例だ。

当時プロトスターでプロジェクトを担当した現HAKOBUNE Founding Partner 栗島祐介氏

(写真左から)TIS株式会社 ビジネスイノベーション事業部 ストラテジー&イノベーションコンサルティング部 ディレクター 水船慎介氏、株式会社Piezo Sonic 代表取締役 多田興平氏
──Tokyo 5G Boosters Projectを経て、今後の展望についてお聞かせください。本事業で培われたような地域自治体と民間企業の連携の仕組みは、どのようなかたちで発展していく可能性があるとお考えですか。
クロサカ氏:東京都は、経済規模で見ると世界的にもカナダ一国に匹敵するほどの、いわばスーパー自治体です。本事業のような仕組みが成立したのも、それだけの基盤があってこそと言えます。小さな自治体が同じことをやろうとしても、運営の負担が重すぎたり、扱うテーマがその自治体だけに限定された狭いものになり、思ったような成果に繋がらない可能性があります。
一方で、日本各地には固有の強みや課題を持つ地域がたくさんあります。日本は非常に多様な国ですから、地域ごとに取り組むべきテーマがあるはずです。
一つの自治体のなかだけで生活が完結している人は、実際には多くありません。1日単位ではそうかもしれませんが、1週間、1カ月で見れば、仕事や買い物、余暇のために複数の地域を行き来しながら生活しています。人々の暮らしの範囲は、行政区画に捉われていないのです。
そう考えると、暮らしの範囲を広域で捉える、あるいは文化的なつながりで捉えるという発想が生まれます。複数の自治体がプロジェクトオーナーとなり、「この地域で解決すべきことは何か」という問いを立ててみる。そうすることで、より生活者の目線に近づけるのではないでしょうか。
例えば、プロ野球チームの広島東洋カープのファンは、広島県だけにいるわけではありません。四国から山陰にかけて、南北に広がる縦長のエリアに分布していることがわかっています。そうした「カープファン圏」でのスタートアップ支援といったことも、アイデアとしてはあり得るのではないかと思います。

Tokyo 5G Boosters Projectも、事業開始当初は全員が手探りでした。しかし、東京都も事務局も審査委員も、そして開発プロモーターも、年を重ねるごとにノウハウが蓄積され、より成熟したスタートアップ支援が可能になりました。
協定事業は令和6年度で終了しましたが、令和5年度から始まった後継事業「次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業(Tokyo NEXT 5G Boosters Project)」では、安定した運営を実現でき、その土台の上でより高い目標に挑戦できるようになっているのではないかと思います。
試行錯誤を経て、「行政がスタートアップ支援にどう関わるべきか」という問いに対する一つの答えが見えてきました。この知見が、東京だけでなく日本各地に広がっていくことを期待しています。
(プロフィール)
クロサカ タツヤ
株式会社 企 代表取締役/慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任准教授
1999年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。三菱総合研究所を経て、2008年に株式会社企(くわだて)を設立。通信・放送セクターの経営戦略や事業開発などのコンサルティングを行うほか、総務省、経済産業省、経済協力開発機構(OECD)などの政府委員を務め、5G/6G、AI、IoT、データエコノミー等の政策立案を支援。2016年から慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授、2024年からジョージタウン大学客員研究員を兼務。著書に『5Gでビジネスはどう変わるのか』『AIバブルの不都合な真実』(ともに日経BP刊)、他。
■「5G技術活用型開発等促進事業(Tokyo 5G Boosters Project)」とは
東京都は、5G技術・サービス等を活用した持続可能な新しい社会の実現等を理念に掲げ、官民を挙げて社会課題の解決をする取り組みとして、令和2年度から令和6年度にかけて本事業を通じ、5Gを活用したスタートアップ企業等の開発・事業化の促進を支援してきました。
本事業では、東京都と協働して支援を行う民間事業者を開発プロモーターとして募集・選定し、多角的な支援を行いました。開発プロモーターは、他の開発プロモーターや通信事業者等と連携・協働を図りながら、最大3年間にわたりスタートアップ企業の開発・事業化を資金的・技術的支援、マッチング支援など多面的に伴走支援を行いました。

■「次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業(Tokyo NEXT 5G Boosters Project)」とは
東京都では、都内スタートアップ企業が、都心部から郊外・山間部、離島を持つ東京というフィールドを活かしながら、世界で通用する競争力を磨き、5Gをはじめとした次世代通信技術を活用した新たなビジネスやイノベーションを創出し、都民のQOL(Quality of life)向上に寄与する有益なサービスを創出するとともに、各スタートアップ企業の企業価値向上を目指しています。
本事業は、前身事業であるTokyo 5G boosters Project同様、東京都と協働して支援を行う事業者を開発プロモーターとして募集・選定し、スタートアップ企業に対し多角的な支援を行います。開発プロモーターは、3カ年度にわたり支援先スタートアップ企業等の開発・事業化を促進するため、連携事業者(通信事業者や実証フィールド提供者、研究機関、VC・金融機関等)と連携しながら、資金的、技術的な支援やマッチング支援等を行います。支援先スタートアップ企業は、開発プロモーター等の支援を受けながら、次世代通信技術等を活用した製品・サービスの開発及び事業上市を目指します。
▼詳細はこちらをご参照ください(「Tokyo NEXT 5G Boosters Project」ウェブサイト)
https://next-5g-boosters.metro.tokyo.lg.jp/
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